海に溺れる

深く繋がりあったあとの、気だるい時間。ワインレッドカラーのベッドに身体を預け、シーツを背中のあたりまで掛けたまま、カムイはぼんやりと微睡んでいた。
 いつも、彼と深く求め合ったあとはどうしようもなく眠くなってしまって、すぐに寝付いてしまうものだったが、その日はまだ起きていたくて、カムイはどうにか意識を保とうとしていた。
 そんなカムイに気が付いているのか、そばで腰を掛けていた男が、彼女の髪を撫でた。後頭部からうなじへと優しく撫でてくる感覚が心地よくて、カムイの口からほんの少しの吐息が漏れる。

「ん……」

 白銀の髪に指を通らせて、その艶やかな手触りを堪能するかのように撫でている手のひらに、カムイはその主を見上げる。見上げた男は、穏やかそうにカムイを見下ろして、微笑んでいる。

「マークスさん……」

 ごろりと寝返りを打ち、仰向けになって彼を見上げれば、彼はその瞳に優しい色を浮かべながら、カムイの頭を撫でてくる。この男、マークスは、カムイの伴侶であった。もともとは義兄と義妹という関係であったが、この二人は長い間培ってきた絆に愛情を芽生えさせ、今や夫婦という関係になっていた。
 兄妹として過ごしていた頃より、マークスはカムイに優しく、時には厳しく接してきたものだったが、カムイもそんな兄が大好きであった。もちろん、その時は恋情が絡むとは全く思っていなかったため、このようにマークスと深い時間を過ごすとは想像もしていなかった。
 関係が夫婦になり、二人で同じベッドに眠るようになってからは、マークスは段々と男の顔をカムイに見せ始めるようになる。
 当初は何も知らない生娘であったが、マークスに求められる度に、カムイはその快感に震え、次第にその心地良さを覚えるようになってきた。
 マークスに触れられると、胸が高鳴って、落ち着かなくなってくる。深い快感の渦に巻き込まれて、カムイはそこから抜け出せない。
 仰向けになったカムイに、マークスは瞳を細めて笑いながら、その耳元をくすぐってくる。その甘い感覚に、カムイの喉から吐息がこぼれおちる。
 見下ろしてくる、深い茶の瞳に、カムイの心がとくんと鳴り出す。この瞳に見つめられるだけでも、カムイはどきどきと胸を高鳴らせ、落ち着きを失くす。
 先ほどまで、求め合っていたことを思い出して、彼女の頬が赤く染まる。
 そんなカムイに気が付いているのか、マークスも不思議そうな顔をしている。

「どうした、カムイ」

 頭上から、低くて安心する声が降ってくると、すぐにカムイの頬にその手が合わさった。
 彼の手のひらに、自らの手のひらを合わせながら、カムイはうっとりとマークスを見上げる。

「マークスさんと……その、すると……ふわぁって気持ちよくなって、何も考えられなくなるのですよね……なんだか今、とっても幸せです」
「………」

 マークスの大きな手に触れ合いながら、カムイが愛おしげにつぶやいたことに、彼はぴたりと動きを止めた。そんな彼に気付かず、カムイはそのまま瞳を閉じる。
 恐らく、眠くなったから寝ようだとか、そういうことだったかもしれない。カムイが求めようとした睡眠は、他でもない、夫によって奪われることになることを、この時の彼女は想像すらしていなかった。

 眠りにつく寸前のことだった。眠りのふちに降りてきたカムイの耳元が、マークスの指先によって、いじられる。耳たぶを撫でて、指先でその柔らかさを堪能するようにこねまわせば、その感覚にカムイはぱっと瞳を開けた。
 マークスに求められ、快感を覚えるようになったこの身体は、彼に触れられるだけで簡単に身体に火が灯ってしまう。

「あっ…!」
「……何も考えられなくなるほど、私の手技に溺れ、抜け出せなくなっていると?」
「え…!」

 人よりかたちの違うその耳は、カムイにとって、弱点であった。マークスの指先がカムイの耳の輪郭をなぞり、優しく指先で触れていくと、先ほどまで感じた眠気はどこかへと飛んでしまった。
 驚いてマークスを見上げると、彼はにやりと瞳を細めて、カムイを見下ろしている。その、獣のような瞳に、カムイの股のあたりが、きゅんと疼いた。

「なんとも嬉しいことを言ってくれる……私の手で快感に溺れ、女の顔を見せるおまえが愛おしい」
「…ぅ、ぁ…あ…」

 マークスの顔が近付いてきて、カムイの耳元までやってくると、彼は長い舌をぬるりとカムイの耳元に這わせ、そこを舐め始めた。耳が弱いカムイに、わざとやってるのだろうか、ぴちゃぴちゃと舐められる音が鼓膜を支配した。
 耳たぶを舐めて、唇で挟むようにすると、そのまま、マークスは愛の言葉を囁き始める。ときおり、耳の穴のほうまでぺろりと舐められると、カムイはいろいろ快感に火がついてしまって、シーツに隠されていた脚をもぞりと触れ合わせて、甘いため息を漏らした。
 あまりに、マークスに愛されて求められると、カムイはずっとその快感を与え続けていてほしいと思ってしまう。キスをして、身体の奥までその快感を感じたい。そう、思ってしまう。

「え、あ、あの、意地悪しないでください…」
「意地が悪い?十近くも年の離れた男を虜にしておいてよくそんなことがいえる…それに、こんな意地の悪い男を好いたのは誰だ?」
「え、えっ…わ、私…です、けど、 あっ、ちょ、ちょっと、どこ触っているんですか…っ……」
「おまえの胸を揉んでいるのだが…」

 まだ、今だったら、ほんのりと火のついたカムイの劣情も、静めることができる。そう思って、マークスに言うものの、再度カムイを抱くつもりでいるらしい彼は、カムイの身体に掛かっていたシーツをめくり上げて、彼女の白い肌を晒している。
 その大きな手のひらがカムイの胸元に触れて、下からすくい上げてくるように揉んでくる。彼の指の間に乳首を挟まれて、そこを尖らせるように指を動かせば、カムイの思いとは裏腹に、マークスを喜ばせるようにそこがツンと立った。

「ほら……こんなに尖らせてしまって……おまえのここは、可愛いな……いじり倒してやりたくなる」
「ひぁっ…な、何を……!」
「ん……カムイは舐められることも好きだろう……?」
「ぁ、あ…」

 マークスにより、尖ったそこをいじられると、カムイはいよいよ快感から抜け出せなくなってくる。身体を屈めたマークスが、空いていた方の乳首を唇で食むと、そこを舌で触れ始める。
 ときおりそこを強く吸えば、カムイの口からは甘い声が漏れ始める。そこかしこが弱く、深い性感を得ることの多いカムイにとっては、その感覚にもぞりと膝をすり合わせる。

 一方は、こりこりとこねまわされて、もう一方は、彼の唇に挟まれたまま、ちゅうちゅうと吸われている。時々、そこを噛まれると、カムイはベッドの上で身悶えた。

「ぁ、あ…」

 こうなってくると、この熱をマークスに静めてほしいと、そう思ってしまう。赤い瞳に情欲の炎を灯しながら、カムイが彼を見上げると、マークスはそんなこともすべて知ったように、笑っていた。

「どうしてほしい、カムイ」
「へっ……?」
「どうされたいか……言ってみなさい」

 乳首を吸われ、もどかしさに腰を揺らしていると、マークスがそこから唇を離し、カムイを見た。
 その瞳に、カムイはどきりと鼓動を跳ねさせて、息を飲んだ。見下ろしてくるマークスの瞳の向こうに、欲望の炎が揺らめいていた。そんな瞳にすら、感じてしまうカムイは、再び膝をすり合わせながら、羞恥に顔を赤くさせる。

「あ、ぁ……もっといっぱい、胸……さわって、下さい…」
「他には?」
「……みみ、舐めて…ください……」
「そんなものでいいのか?」
「…ぁ……もっと、した…も……さわって、ください……」
「……ふ…いい顔をしている……もっとそのような顔を見せてくれ……」
「ひぁぁ……ひゃぁん…」

 マークスにはもちろん、カムイが触れて喜ぶ場所というものはよく知っている。だが、敢えてそれには触れず、カムイの言葉で導き出す。
 陶磁器のように美しい肌が赤く染まり、宝石のようなその瞳は、快感やいろいろな感情に涙の膜を張り、かがやきを増す。
 精いっぱいのおねだりをしたカムイに、マークスは気分が良さそうに笑うと、お臨み通りに彼女の胸を揉みしだき、もう片方の乳房に吸い付いていく。痕をつけるように勢いをつけて吸うと、白い肌にいくつもの花が咲いた。
 いくつもの赤に満足そうにマークスは口元を緩めると、彼女の尖った耳を食み、甘噛みする。そうすれば、彼女の喉から頼りない声が漏れる。耳たぶに吸い付けば、腰が跳ねた。
 身悶えるあまり、カムイの頭が枕からずり落ちていることに気が付いたマークスは、それに瞳を細める。それに、腰ももぞもぞと動き、辛そうだ。
 さきほどまでの行為があるからこそ、カムイはいつもより熱が高まるのも早くなっていく。

 胸への愛撫をそこそこに、マークスは利き手の人差し指と中指を合わせたままそれをカムイの唇に押し当てると、小さく言い放つ。

「……舐めなさい。噛んではいけないぞ……」
「ん、む……むっ…」

 小さく唇を開いたそこに、マークスは二本の指を進めていく。体格の差だろうか、小さなカムイの唇にも、マークスの二本の指は大きいように思えた。
 まるで、口で彼のものを奉仕するような光景だった。マークスに言われた通り、カムイは彼の指を噛まないようにしながら、彼の指をぺろぺろと舐め始める。ときどき、吸って、舌を使って指の腹を押せば、それにマークスは瞳を細める。こうして、カムイに口淫のような真似事をさせるのも、マークスの興奮を煽る。歯を立てないようにと、賢明に奉仕するカムイが愛おしい。
 カムイがそれに夢中になっている間に、マークスは彼女の身体にかかっていたシーツを取り、空いた指先で秘所へと進ませる。
 きっとここは、触れられたくてたまらないのだろう。そう思いながら、マークスはカムイの小さな蕾に触れてやる。するとーー…

「んむっ!ん…!」

 待ち望んでいた快感だったのか、蕾に触れられただけで、カムイは小さく達してしまう。それに驚いたのは、マークスだけではなく、カムイもそうだった。それに、カムイはオロオロと瞳に涙を浮かべ、不安そうにマークスを見上げる。
 なぜなら、マークスに噛むなと言われていたのに、待ち望んでいた快感を与えられて驚き、ほんの少しだけ、指を噛んでしまった。
 動揺するカムイの唇が開き、その隙間から唾液がこぼれてくる。
 不可抗力とはいえ、カムイに噛まれたって、そんなの痛くもかゆくもない。むしろ、彼女が涙を込めることは、マークスの興奮を煽る。

「噛んでしまったな、カムイ……噛んだらどうなるのか、分かっているだろう?」
「んっ、む…むぅ…」
「カムイ…さぁ、起きるんだ…」
「ふ、ぅ、ぅ…んむっ…」

 マークスは、カムイの唾液にまみれた指先を引き抜くと、自らはベッドに座り、向かい合わせにするようにして、カムイを自らの膝の上に乗せた。
それをカムイの下肢へとすべらせていく。
 先ほどもここに触れて、マークスのものを埋めて、中に精を吐き出した。
 ほんとうは、今すぐにもカムイの中に押し入って、この熱を解放させたい。そう思うものの、早々に果てるのはもったいないと思うマークスもいる。
 膝の上に乗せたまま、カムイの濡れそぼったそこを撫でると、彼女の背なが震える。先ほども解きほぐしたばかりであったが、カムイが段々と乱れていく姿が好きなマークスにとっては、じっくりとした愛撫も欠かせない。
 カムイに濡らされた指先で蕾を撫でて、ぬるりとした蜜を絡ませ、中に侵入させると、その感覚に、カムイの腰が跳ねる。
 その指先は優しく、カムイの快感を仰ぐ。

「あっという間に指を二本も飲んでしまった……カムイ、どうだ?」
「んぁぁぁ…はぅ……ひっ…」
「感じすぎて何も言えぬか……まぁ、いい。このままではつらいだろう……一度、果てさせてやろう」
「あぁぁ…っ…!いやっ、あんっ、そんな、いきなり…!」

 マークスは、中に埋めていた指をじゅぷじゅぷと動かし始めると、長い指でカムイの感じる部分に触れて行く。内壁を押され、何よりも感じてしまうそこを突かれると、カムイは膝でマークスの身体を挟み、抱きついてしまう。蕾のすぐうしろ、ざらついた部分を押されて、カムイの頭は真っ白になってくる。

「やっ、あ、ぁあ……また、きちゃう…!」

 ふわり。身体が浮く感覚がある。その日、何度目か分からない高みに登りつめさせられて、カムイの瞳から耐えきれずぽろりと涙がこぼれ落ちた。

 マークスの指に突かれて、深い絶頂に達したカムイはぐったりと彼に身体を預けて、肩で息をしていた。
 そんなカムイのふとももには、カムイの姿に劣情を催し、硬くなったそれが押し当てられている。

 もぞりとカムイが腰を揺らしたことに、マークスは瞳を細めると、その先端をカムイのそこへと導く。

「本当ならばもっと登り詰めさせてやりたいところなのだが……私も限界だ。入れるぞ…」
「あっ、だめっ!このまま、入れないでっ…!」

 そう呟いたマークスが、カムイの入り口にあてがい、彼女の腰を落とすと、自らの重みで、ずぶずぶとマークスの全てを包み込んでしまった。指とは違う、長くて太いものがカムイのそこを満たしている。それに、カムイは胸を高鳴らせる。どくどくと血が通っていることを深く感じる。

 カムイを膝の上に乗せたからなのか、いつもよりも深く繋がって、マークスは色っぽく溜息をつく。ひとたび中に埋めれば、じくりと潤むそこがなんとも心地よくて、出たくなくなる。
 しかし、そういうわけにもいかない。カムイの奥に、男の欲望を植え付けて、快感を教え込んでやりたい。
 深くつながりあったまま、動かずにいたマークスであったが、しばらくすると、カムイがもぞもぞと腰を揺らし始める。
 深くつながるだけでは、この姫は満足がいかないようだ。
 それにマークスは笑うと、下からずくんとカムイを突き上げる。

「ひぁっ…!」
「ここだろうか…感じるところは……どうだ、カムイ……ああ、そんなに締め付けるな……いけない子だ…っ…」
「ひんっ、ぁ、、あ、いやぁ…!」

 マークスがゆっくりと腰を突き上げていくと、カムイの内部がきゅうきゅうと締め付けてくる。先ほども精を吐き出したマークスにとっては、このくらいはまだ耐えられるが、あまりに締め付けられると、つらいものがある。次第に、カムイも無意識に快感を得られようとしているのか、腰が揺れ始める。
 カムイの締め付けと、その心地の良い壁に包まれて、マークスの眉間が深く刻まれる。
 カムイはまだ、年若く、夫婦の営みに対しては、マークスに教え込まれたようなものである。それなのに、彼女の身体が性を覚えると、マークスを煽るようなことすら無意識にしてしまう。

「だっ、ダメ、ぁ、あ…!もう、だめ、、奥に当たって…!!」
「もうか……?いくらでも、果てるがいい……っ…く…」
「いやぁあんっ…!」

 マークスによる突き上げで、びくびくとカムイは腰を震わせると、そのまま彼のものを締め付けて達した。
 カムイが達したことにより、内部がゆっくりと痙攣して、じわじわと締め付けてくる。それをマークスはやり過ごすと、快感にのけぞり、白い喉をマークスに晒している妻を見つめる。そして、そこにも吸い付くと、マークスは一度自身を引き抜いて、カムイをベッドに押し倒した。
 それには、カムイは驚いて、マークスを見上げている。

「…まさか、自分ばかりが果てて、私は置いてけぼり…などと、そういうことではないよな?」
「へっ!え、あ、そ、そういうわけじゃ…!」
「なら、もう少し付き合ってもらおうか……ほら、おまえのせいでこんなになってしまった……もう、容赦はしない」
「あぁ…ぁ…!!」

 カムイの膝を抱えて、再度そこに自身を埋めると、つぷりと水音を立てて飲み込んでいく。
 先ほどは、体勢もあってマークスは手加減をしていたが、この体勢ならば、手加減することもない。
 早々にはカムイの中に精を放ちたくないと思っていたが、今や、それを吐き出して、中を満たしたいという欲求すら思える。
 ぎりぎりまで剛直を引き抜き、再度埋めることを繰り返すと、カムイは切なく、頼りなく鳴き出す。
 マークスの男の部分を引き出し、欲情させるのは、カムイ一人だけなのだ。何度精を吐き出してもとどまることを知らぬこの身体に、彼は苦笑しつつも、柔い内壁を堪能する。

「はぁっ……カムイ……いいぞっ……もっと、甘い声で泣いて、その表情を見せてくれ…っ…」
「あ、ぁ、ん、ァ…」

 だんだんと、マークスの声も色っぽくなり、限界が近いであろうことが伺える。
 がっしりと筋肉のついた彼の身体に、汗がつたう。その光景に、胸を震わせたカムイは、思わず下肢に力を込めて、彼のものをぎゅうっと締め付けてしまう。
 それに、マークスは顔をしかめると、そろそろだと言わんばかりに、勢いよく腰を打ち付け始める。

「んやぁあぁ、も、だめ、そ、そんなにしたら……!」
「はぁ……っく……もう、限界だ…。おまえの中に、出したい……っは…!」
「あぁ、あああっ…!!」

 何度目かわからないカムイの絶頂に、マークスはそれに釣られるようにして勢い良く精を放つと、それを一滴もこぼさぬように、腰を打ち付けて、奥にそれを刻みつけた。
 その間でも、カムイは小さく喘いで、マークスの胸をじくりと刺激する。


 マークスがゆっくりとカムイの中から自身を引き抜くと、先ほどは奥に埋めた白濁を掻き出そうと、二本の指を使ってカムイの中をいじっていく。

「ぅ、んっ……」
「カムイ、我慢してくれ……」
「ゃ、む、むり、です……ひぁっ…!」
「……こんなところでいいか……ん、どうした、カムイ…そんなに物欲しそうに見つめて……」
「も、物欲しそうになんてしてません!マークスさんの意地悪!もう、寝ます!!」
「あ、カムイ……」

 からかいすぎたのだろうか、カムイはマークスに背中を向けながら、シーツの中にくるまってしまう。
 もとは義妹であった少女に惚れ込み、いい年でありながら、夜毎その少女に欲情している。
 いや、むしろ、マークスくらいの歳の男の方が、盛んに愛する女を求めてしまうことはあるだろう。そうでも思わないと、どうしようもなくカムイを求めたくなってしまう気持ちが行き場をなくしてしまう。

 拗ねて、背中を向けているカムイに、マークスは愛おしそうに笑いながら彼女の身体に腕を回す。


「愛しているよ……カムイ…おまえの甘い声を聞くと、私はおまえに溺れてしまう……」
「……マークス、さん……」


 彼の甘い声にカムイは寝返りを打つと、すぐにこめかみや額、頬から唇へと、キスが降りてくる。
 唇を触れ合わせ、カムイはマークスの手のひらを探すためにベッドを彷徨うと、それがすぐに繋がれた。

 すぐそばにあるこの体温が、どうしようもなく愛おしい。
 
 先に溺れたのは、カムイであるのか、マークスであるのか。
 きっと、先に溺れたのは自分の方だと、マークスは思いながら、カムイの体温を感じながら、瞳を閉じる。

 この海になら、いくらでも溺れたって構わない。
 そのようなことを思いながら。


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