愛に包まれてゆく




 マークスによって、寝台に押し倒されたカムイは、彼の瞳に灯る熱き炎に、どきりと胸を高鳴らせた。

 カムイを閉じ込めるかのようにマークスが覆いかぶさってくるものだから、カムイは当然ながらその場から動くことなどは出来ず、ただ彼を見上げるしかない。

 これから起きることに不安を感じてしまい、どこか頼りなさそうな、泣きそうな顔でもしていたのだろうか、覆いかぶさっていたマークスは瞳を細めて笑うと、身体を屈めてカムイのこめかみに口付けた。


「そんな顔をするな……。」

「んっ…ど、どんな顔ですか…?」

「不安で、泣きそうな表情だ…。」

「……ん…だって…。」


 カムイのこめかみに唇を押し当てたまま、マークスは頬、口元へと唇を滑らせて行くと、何か言いたげな瞳をする彼女を見つめる。

 カムイを抱くのはこれが初めてではないし、幾度もなく求め合ってきた。何度抱いても、純情な乙女のような反応を見せてくれる彼女は、マークスをいつも楽しませる。

 そして、この日はまだ日が出ている時間で、二人の時間を過ごすにはまだ早いからなのか、それとも明るいからなのか、カムイは恥じらっているようであった。


「…明かり、消せないし……恥ずかしい…。」

「ああ、まだ暗くはないからな……だが、明かりがあると、おまえの白い肌がよく見えていい。」

「ど、どうしてそんなことを……きゃ…!」


 部屋を暗くしようにも、明かりを消したところで窓から太陽の光が差し込んでしまうため、カムイは恥ずかしがる。

 闇に染まる夜であったら、肌があらわになっても昼間ほど恥ずかしくはないのだが、今の時間はマークスに肌をよく見せてしまう。

 そう思い、カムイは不安そうにしていたのだったが、カムイは不意に耳元に濡れた感覚を受けて、身体を跳ねさせた。


「…ん……ぅぅ…!」

「……カムイ…。」


 さきほどまではマークスと会話をする余裕もあったものの、彼の濡れた舌が耳元をなぞった途端に、カムイはすっかり大人しくなった。

 濡れた舌が耳たぶをかすめ、その輪郭をなぞるように触れれば、カムイは頼りない声をあげてその感覚に耐えた。


 カムイがどこに触れられれば喜び、快感に身をふるわせるのかなどは、マークスにとってはよく理解していることだった。

 人より特徴のあるその耳は、どうやらカムイにとっては敏感な場所であるらしく、音を立てて舐めるだけでカムイはすぐに反応してしまう。

 びくりと身体を跳ねさせたカムイは、マークスにやめてもらおうと彼の背に力を込める。


「やぁ……や、やめ…。」

「やめてしまっていいのか?…随分気持ち良さそうにしているが…。」

「あ…あ、ん……だ、だって…。」

「やめてほしいのならば、やめるぞ。」

「…あ……。」


 耳を舐められただけで甘い息を漏らしてしまうカムイは、どきりと鼓動を高鳴らせつつ、本能的に彼を離したくないと思い、ぎゅ、と首筋を抱いた。


「…や、やめないで…あんっ、あ…。」

「……素直でよろしい。…声も抑えるなよ。」

「ん、ん…ふ…。」


 離れていく彼の唇に、カムイが寂しそうな声をあげれば、マークスは気を良くしたように笑い、ふたたび彼女の耳に舌を這わせた。

 彼の舌が耳元をなぞるたびに、カムイはどうしようもなく身体を熱くさせて、その快感に引き込まれそうになる。

 中途半端に開いた口からは、言葉として発せられているのかわからない声が漏れていく。

 マークスの唇が離れて、その唇がカムイの口元までやってくると、カムイは思わず唇を開き、彼にキスを求めた。


「いい子だ……。」

「んっ…。」


 それに、マークスは彼女の頭を撫でながら唇をふさぐと、カムイの方から舌を合わせ、求めてきた。

 いつもはそのようなことはしないため、マークスはどうしようもなく彼女を求めたくなり、噛み付くようなキスをする。

 キスを交わしつつ、マークスの手のひらがカムイの身体をなぞり、胸元にたどりつくと、触れるか触れないか微妙な力加減で触れはじめた。


「あっ…や……もっと…。」

「もっと……?どうしてほしい?」

「ぅ……。」


 もどかしいその刺激に、カムイはふぅふぅと息を荒くさせながらも、切なげに瞳を潤ませると、息を深く吐き、瞳を閉じた。

 ときどき、彼がすることだったがこうして求め合っているときに、マークスがどこか意地悪に、カムイの耳元ばかりに囁く時がある。

 そんな時は決まって、カムイはいつもより感情を高ぶらせて、深く彼を感じてしまう。

 耳たぶを甘く噛まれて、カムイは無意識のうちに腰を捩らせつつも、震える両手を自らの胸に触れているマークスの手のひらに添わせると、彼の手を自分のもとへと引き寄せた。

 すると、その大きな手のひらが胸を包む感覚を受けて、カムイははぁっと息を吐いた。


「も、もっと…触って…ください…。」

「…どこを…どうして…?」

「う……わ、分かってるくせに……マークス兄さんの、意地悪……。」

「……ほう。おまえの兄は維持が悪いか……しかし、今の私はおまえの兄ではないからな…ただ、カムイを愛する…一人の男だ……。」

「ひぁっ…!」


 もはやカムイの理性は無いも同然で、マークスをすがるように見つめれば、にやりと瞳を細めて笑う彼がいた。

 カムイは、これまで長い間マークスを兄として見てきたからなのか、時折マークスを兄と呼んでしまうときがあった。無論、今となっては生涯をともにする伴侶であるので、兄でもなんでもないのだが。

 彼のことを兄と呼んでしまったからなのか、マークスは手を滑らせてカムイの下肢に手を伸ばすと、彼女の穿いていたパンツを緩め、下着の上からそこをなぞりあげた。


 それに、カムイは腰をびくりと震わせ、マークスは指先が濡れる感覚に瞳を細めた。


「……どうした…?まだ触れられてもいないのに、濡れているぞ…。」

「うぅぅ……だって、マークス様が…。」

「ふふ……可愛いやつだ。つい、いじめたくなる。」

「……うぅ。」


 ぴくりと腰を跳ねさせながらも、カムイが彼を見上げれば、マークスは瞳を細めて笑う。

 カムイの動揺に、マークスはとても嬉しそうに笑い、彼女のこめかみに口付ける。

 カムイがマークスの手によって花開かれるたび、マークスは彼女にどうしようもない感情を覚え、溺れていく。

 唇を軽く突き出して、口付けを求めたカムイに、マークスは応えると、口付けを交わしつつ、彼女の胸に触れて行く。


「ん、ん……んぅ…。」

「カムイ……愛している…。」

「ん、ん、んあ…!」


 服をたくし上げ、その柔らかな胸に触れれば、それはマークスの手のひらに収まった。

 カムイはときどき胸の大きさを気にする時はあったが、マークスからしたら彼女の身体というだけで、愛おしくてたまらなくなる。

 頭のてっぺんから足の先までを撫でて、触れてやりたくなる。しかし、そう言ったらカムイは恥ずかしがって、きっと警戒してしまうから、マークスはそれを言うつもりはない。


 彼女の纏う服を取り去り、胸を包む下着までも取り去ってしまえば、カムイは彼に無防備な姿を晒さまいと、胸のあたりを隠していた。


「カムイ……見せてくれ。おまえの白い肌に……触れたい。」

「っふ……み、耳元でしゃべっちゃ、だめ、です…。」

「……恥ずかしいか…?」

「うっ……は、はい…。」


 カムイの白い頬が紅潮し、全身でマークスを感じているといった様子に、彼は瞳を細めて笑う。

 身体を隠そうと思い、気がそちらに向かっているカムイをいいことに、マークスは手のひらを忍ばせて、カムイの腰に触れた。

 武骨な指先が腰を辿り、胸元に移動すれば、カムイは思わず胸元を抑えていた手のひらを離した。

 それに、思わずマークスが笑みをもらすと、カムイは不満げな顔をして見上げた。


「……はずかしいので、笑わないでください。」

「…それはまた、無理な話だな。」

「うぅ……あっ…!」


 まだ軽口を叩いてる余裕があるか、とマークスは思い、彼女の胸に手のひらを埋めれば、それは容易に形をかえて、マークスを楽しませる。

 すぐに、感じているような表情を浮かべるカムイに、マークスは瞳を細めて笑うと、身体を屈めて、その胸の頂に口付けた。


「んっ…!」


 すると、カムイは腰を揺らし、甘い声をあげる。

 この声を聞くたび、マークスは彼女を求め、どうしようもなく触れたくなってしまう。

 そっと舌を出して、それを優しく撫でていくと、カムイはマークスに縋り付くように彼の服を掴んだ。

 胸の愛撫に夢中になっているカムイを見つめながら、マークスは手のひらを下げると、さきほど触れたそこをゆっくりと撫でた。


「んん、んっ……いやぁ、あっ…!」


 彼女のそこは、待ち望んでいたであろう刺激を求めていたのだろうか、マークスが手のひらでなぞるだけで腰をびくりと揺らした。

 まだ求め合うような時刻ではないからなのか、どうなのか、カムイの興奮は絶頂に達していた。

 下着の上から、きっと触れられることを期待していたであろう蕾に触れてやれば、カムイは腰を捩らせ、悶えた。


「どうしてほしい、カムイ。」

「っは……はぁ、あ…。そんな、恥ずかしっ…!」

「言わないと、このままだぞ…。」

「やっ……!」


 指先でぐりぐりとこねくりまわし、刺激を与えてやれば、カムイはマークスの手のひらにそこを押し付けるように無意識に腰を動かした。


 普段、美しい雰囲気を纏う彼女が、マークスの前だけに見せるその乱れた姿が、なんとも愛おしく感じる。

 カムイが言うまで、楽しんでいようと思っていたが、彼女のその乱れように彼の下肢はどうしようもなくたかぶっていた。


 彼女の前では余裕を見せているものの、カムイのその様子に、我慢がきかなくなるときだってあるし、深く愛してしまいたいときもある。


 今日は特に余裕がない、とマークスは思いながらも、カムイに触れ続ける。


「あっ、あ……そこばっかり、イヤ、です……。」

「嫌か……わがままだな、カムイは……。」

「ひぁ、あぁ……。」


 カムイなりに、精いっぱいマークスにねだったのだろうか、彼女のその声に、マークスは嬉しそうにつぶやいて、彼女を守る最後の砦を崩して行く。

 下着を取り、素肌を晒してしまえば、カムイはもじもじと身悶えた。

 そんな表情をするたび、マークスの余裕がなくなることは、彼女は知らない。

 カムイの腰を撫でて、さきほどまで触れていた蕾に直接触れて行くと、カムイはさらに甘い声をあげて、ベッドの上で身をよじらせた。


「うっ……あぁ、だめ……そんなに、しないで……あ、あ。」

「…我慢するな。沢山…愛してやる……。」

「あ、あ、あ…!!」


 カムイの声に、絶頂が近付いてることを察したマークスは、指先でそれを擦り上げれば、彼女は白い喉を仰け反らせ、絶頂を迎えた。

 強いその感覚に、カムイはぼーっと呼吸を繰り返していたようだったが、その瞬間もマークスに見られていることを思い出し、顔を染めた。


「見ちゃ、だめ…です…。」

「…無理だな……。」

「ぅ…あんっ!」


 もう、限界かもしれない、と思いつつ、マークスは彼女を慣れさせるために濡れそぼったそこに指先を忍ばせていけば、カムイの腰はびくりと跳ねた。

 そっと進入したそこは、とても熱く、マークスの指を容易に飲み込んだ。

 すでに何度も求めあっているため、マークスはカムイの喜ぶ箇所がどこであるのかなど、知っている。

 その場所に触れて、暴いていけば、カムイは苦しげな呼吸を繰り返し、マークスにしがみついた。


「うぅうー…あっ、だ、だめ…やめて…!きちゃう!」

「……そのまま…身を委ねていればいい……。」

「っ!あっ、あ…!!」


 ふたたびの絶頂が近付いてきたことを知れば、マークスはそれに応え、カムイを導いた。

 絶頂にぴくりと震える蕾をひとなですれば、彼女の口から甘い吐息がこぼれた。


 もう、抑え切ることはできない。彼はそう思いながら、カムイの脚を立てて開かせると、腰のあたりを緩めて、彼女の姿に反応しきったそれを取り出すと、彼女のそこに押し当てた。


「入れるぞ……っ…。」

「う、あ……ああぁ……。」


 ゆっくりと腰を押し進めて、自身を彼女の中へと進入させると、待ち望んでいた感覚に、マークスは息を吐いた。

 できることなら、このまま腰を動かして、欲望のままに行動したいが、それはマークスにとって本意ではない。

 カムイを気遣うように腰を進め、挿入させていくと、その度にぴくりと彼女のそこが締まった。


 そして、マークスはすべてを埋めて、カムイを見下ろせば、彼女は泣きそうな、けれど、溶け切った表情で見つめ返してきた。


「……いいか?」

「んっ、きて……あぁ!」


 気遣い、優しく触れるマークスに、カムイは彼のものをきゅ、と締め付けつつも言葉を返すと、すぐに彼の腰が動き、カムイを蹂躙し始めた。


 いつもこの瞬間は、カムイは意識がすべて持って行かれそうになって、苦しくなる。

 彼の腰が引いて、ふたたび押し寄せてくる度に、カムイは息が荒くなって、意識が飛びそうになる。


「あ、あっ、あっ…!」

「っ…カムイ……。」

「マークス、さまぁ…っあ…、そこ、やぁ…!」


 いつもより高い声を上げたカムイに、マークスはそこを攻め立てていくと、彼女の中がきゅ、と締まった。

 いつも、清らかで美しいその顔が他でもないマークスに乱されて赤く染まって行く。

 それはマークスの身体を熱くさせるのは容易く、彼はカムイを追い上げるように腰を突き動かした。

 すると、カムイはあっ、というような、驚いた表情をして、マークスに抱きつく。


「だめ、だめ……もうっ…!」

「ああ……分かっている……っ……はぁ……カムイ、瞳を開けて…。 」

「あ、あ、あぁ…!!」

「……っく……。」


 彼女のその赤い瞳が、涙に潤み、光を反射させたその光景は、とても美しいものであった。


 深くまで突き上げて、それによりカムイが絶頂を迎えれば、きゅ、と何度も彼を締め付けて、離さなかった。

 その刺激に、マークスは顔をしかめつつ、何度か突き上げると、彼女の奥深くに己の欲を吐き出した。







 いつもより日の出ているうちに求め合ったからなのだろうか、カムイは彼に身体を離されて、はぁはぁと、絶えず荒い呼吸を繰り返した。


「……カムイ。」

「……こっち見ないでください……恥ずかしい……。」

「そう言われてもだな……。」


 頭上から、彼の優しい声が降りてきて、カムイは顔を真っ赤にさせてしまう。

 マークスに身体を晒すこともそうだが、こんなことをして恥ずかしがるなというほうが、無理な話である。

 マークスの手のひらがカムイの頭を撫でて、その瞼に優しく口付けると、彼はその甘い声でカムイに囁く。


「……愛している……カムイ。」

「マークス様……ん……。」


 彼の大きくて優しい愛が優しくカムイを包み、癒していく。

 その感覚にひどく心が落ち着くことを覚えながら、カムイは彼と優しい口付けを交わした。


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