影が伸びていく
カムイは布団の横にちょこんと正座をして、それはもう、かわいそうに思ってしまうくらいに、かちこちに固まっていた。伸ばした背筋はぴんと伸びて、その表情ですら凍りついたようで、それが和らぐことはない。
彼女の心のうちを締めるのは、これから起きるだろうことについてである。そのことを思ったら、カムイはどきどきと胸を高鳴らせてしまい、口から心臓が出てしまうのではと思ってしまうくらいに、緊張していた。
どことなく、呼吸もいつもより早くて、息苦しい気もする。
どうしようかと、カムイが思っていた頃だった。部屋の外から、ぎしりと床を踏み締める音が聞こえてくる。その音に、カムイはより一層身体を固くさせて、肩を強張らせた。
カムイの緊張が高まっている中、その足音は、彼女がいた部屋の前でぴたりと止まった。
そして、障子がすうっと開き、何者かが現れた気配に、カムイはいよいよ固まってしまった。
すぐ後ろで、畳を踏み締める音がする。カムイがそれに驚きつつ、どんな声を掛けたらいいのやらと悩んでいると、後ろから包み込むように抱き締められていた。
「……カムイ、緊張しているのか?」
「……はっ……はいぃ…」
その問いかけに、カムイの声は裏返ってしまう。いつもとは違う自分の声に、恥ずかしくてたまらず、彼女は瞳を潤ませたが、カムイを背後から抱き締める男は、彼女を安心させるように笑う。
「緊張するな……というのは無理かもしれんが、俺は緊張しているおまえを無理やり抱こうなどとは考えていないぞ。……今日はやめておくか?」
「リョ、リョウマさん…」
広い腕でカムイを抱き締める男、リョウマはカムイが将来をともにする伴侶であった。婚姻を結び、夫婦になってからしばらく経つのだが、この二人はいまだに夫婦の契りを交わしたことはなかった。
カムイよりも年上であるリョウマは、なんの経験もない彼女のために、これまでずっと彼女の心の準備が出来るまで鋼の理性を持って彼女と過ごしてきた。
身体の繋がりも婚姻を結んだばかりの夫婦としてはもちろん必要であるとは思うが、このようにかちこちに固まっているカムイを無理やり抱いてまで、繋がりを持とうとはリョウマは思っていなかった。
カムイはもちろんだが、知識も経験も何もない。それに、年上であるリョウマが引っ張ってやらないといけない。やはり、緊張してしまっているカムイにリョウマは告げるのだが、彼女に回していた腕をぎゅっと掴まれて、彼は動きを止めた。
「そ、そう言って……こないだも………あの、し、しませんでした……わ、私だって…リョウマさんと……したい、です……」
「…………」
「そ、それとも、いつまでも拒んでばかりで、飽きられちゃいましたか……!?」
「…………」
「リョウマさん……」
カムイの心が追い付くまで、抱くことはしない。先日、このような雰囲気になったときも、結局カムイが怖がってしまって、リョウマは彼女を抱かなかった。正直、男としては、愛おしく思っている女を抱きたいと思っていない者はいないだろう。
リョウマとて、その一人である。本当は、欲望のままにカムイを組み敷いて、抱きたいと思ってしまったことだって、あった。だが、彼女がなによりも大切な存在であるから。そう思って、我慢をしてきた。
だが、どうだろうか。あれだけ緊張して、怖がっていたカムイが、リョウマにその身体を捧げようとしている。そんな状況から逃げるなんて、男ではない。
何も言わないリョウマに、カムイが泣き出しそうになった頃、たまらず、リョウマは彼女を強く抱きしめて、そのうなじに唇を寄せた。
「きゃあっ…!」
「……んっ……カムイ……抱いても…いいんだな…?」
「は……あ、は、はい……ぅ……」
うなじに吸い付いたまま、リョウマは言う。初めて肌を吸われたからなのか、カムイは小さな声を上げた。そのまま、リョウマが勢いをつけて肌を吸うと、カムイの白いうなじには赤い痕がついた。それに満足そうになぞりながら、リョウマは正座をしていた彼女の脚をとり、抱き上げる。
「きゃあっ!」
「…畳の上では身体を痛めるからな……カムイ、怖くなったら言っていいんだぞ」
「は、はい……」
リョウマはカムイを布団の上に座らせて、こちらに引き寄せると、緊張に震えていた唇に自らのそれを寄せた。
身体を繋がらせなくとも、口付けだけは、なんどもしてきた。リョウマは、ふっくらと柔らかい彼女の唇を堪能し始める。
唇を少し離して、そこを舐めると、カムイの唇がぴくりと開いた。そのまま、リョウマはカムイの下唇から上唇までを時間を掛けて舐めると、抱き寄せたカムイの腰がぴくりと震える。
「ふぁ……んっ…」
「カムイ……そのまま口を開けるんだ……そうだ…そのままだ…」
「んむっ、んく、んぅ……」
柔らかいその唇は、触れているだけでもリョウマの身体の熱をあおってくる。カムイの唇を開かせて、口内に舌を滑り込ませると、その柔らかな舌の感触にカムイはびくりと腰を震わせた。
リョウマの熱い舌がカムイの口内に忍び込み、その歯列をなぞっていく。歯を一本一本なぞるように、舐めていると、ときおり、彼女の身体がもぞりと動くようになってきた。それにリョウマは気を良くしながらも、じっくりとカムイの歯列を舌でなぞっていく。
そっと舌を伸ばして、歯列の裏をなぞると、カムイは座っていられなくなったのか、リョウマにもたれかかってきた。
「ん、んはぁ、は、はぅ…」
「んっ……」
おそらく、意識せずとも、甘い声を漏らしてしまうのだろう。さらにカムイのその声を聞きたいと思うリョウマは、奥の方で震えていた彼女の舌を捕らえて、絡め取った。
どちらのものかわからない唾液がカムイの唇の端からこぼれ、滴り落ちる。優しく舌を吸ったり、その付け根を先端でいじっていると、カムイが膝を擦り合わせながら、もじもじと腰を揺らし始めた。
それに気がついたリョウマは、口付けに夢中になっているカムイをいいことに、彼女の夜着の裾から手を差し入れて、その秘めたる部分を指先でなぞりあげた。
「んぁっ…!」
まだだれにも触れさせたことはないであろうそこに触れると、そこはじっとりと下着を濡らし、湿っていた。初めて、そこに触れられたカムイは、いやいやと唇を離そうとしながらもがこうとするが、今までに感じたことのない気持ちよさに身体の力が抜けていて、リョウマの手を退かすことができない。
「ん、やぁ……リョウマさんっ、そこ、やだ…!」
「……濡れている……カムイのここ……たっぷり濡れているぞ…」
「やだぁ…!」
リョウマはたまらず、カムイを布団の上に押し倒すと、彼女の夜着の裾を開かせて、その下着をじっと見つめる。そこから溢れる蜜を吸ったそれは、すでに下着としての役目を果たしていないようだった。いやいやと恥ずかしがるカムイにリョウマは瞳を細めながらも、その帯をするりと剥ぎ取って夜着の合わせをゆっくりと開いていく。
初めて見るカムイの裸体は、とても美しいものだった。戦場に立つということから、彼女に生傷は絶えないのだが、ふっくらとした胸元に、赤く色づいた肌を見ているだけで、リョウマは理性をなくしてしまう。
そのままじっとカムイを見つめていると、カムイが恥ずかしそうに身をよじらせた。
「悪い……つい、見惚れていた…美しい身体だ……」
「あっ……んっ…」
カムイの身体に跨り、リョウマはその乳房に唇を寄せると、いとおしむように口付けをしていく。空いた手で、もう一方の乳房を包み込むように触れると、彼女の柔らかく、大きなそれを感じることができた。
次第に、口付けだけでは我慢がきかなくなってきたリョウマが、その白い乳房に吸い付くと、彼女の腰が跳ねた。
「ああっ、いや、あっ、あ、そこばっかり、舐めないでっ…!」
「……ん……」
頂きを口内に含み、強く吸ってみると、カムイの身体がびくびくと震え、悶える。きっと、胸への愛撫が好きなのだろう。そう思い、リョウマが、乳房からそのてっぺんを舐めながら、彼女の脚の付け根に手を伸ばして行く。
濡れた入り口を指先で確認するようになぞり、その少し上の蕾を押しつぶすと、その刺激にだろうか、カムイはびくびくと腰を震わせた。
「ああぁっ…!あ、あぁ…!」
蕾を押しつぶし、こねるように触れていると、胸への愛撫も合わさったのか、カムイに強い快感をもたらした。
それにより、初めての絶頂を迎えたカムイは、小刻みに腰を震わせた。
白い喉をのけぞらせ、快感にふるえるその姿は、なんとも美しい。
たまらず、リョウマはみずからの夜着の帯をするりと抜くと、彼女の喘いだ声と、乱れるその姿に、張り詰めていたそれを寛がせる。初めてカムイを抱けるということに、リョウマのそれは、天を仰ぐほどどうしようもなく興奮していた。だが、こんなに大きくふくらんだものを、初めてのカムイのそこに挿れるわけにはいかない。
「気持ちいいか、カムイ……」
「はぁ……はぁ……はい…」
「もっと……俺が気持ちよくさせてやる。…少し、脚を開いてくれ」
「んっ……こ、こう…ですか…?」
「ああ、痛かったら…言ってくれ。
絶頂にふるえるカムイを待って、リョウマはその膝を割って、右手をその付け根へと持っていく。
濡れた具合を確かめるように指先で滑らせると、カムイの蕾を下着の上から探り当て、そこをなぞってやる。
「んんー……ん、あぅ、あぁ…」
「気持ちいいか…カムイ…?」
「はぁ、はっ……はい…」
他でもない、リョウマ自らの手でカムイを少女から女に変えるというその行為に、彼自身も限界だった。
早く、その中にこの欲を満たしたい。そう思うも、しっかりと前戯を行わねばならない。初めての記憶が、痛くて怖いものだと植え付けられないように。
「はぁっ、あっ、ア、ア…!!」
「カムイっ……力を抜いてくれ…少し、キツイ……」
「ア、アッ、あぁ…!」
カムイの誰も男を受け入れたことのないそこが、リョウマの熱いそれで満たされていた。初めのうちは、圧迫感に慣れず、強張っていたものであったが、何度かそれをゆっくりと引き抜いて、奥に進ませるたびにカムイの声が甘く、色を感じるものになってきた。
初めてということで、狭いそこは、ぎゅっと締め付けられただけで、リョウマは達しそうになってしまう。さすがに、こんなところで出してしまうのはもったいない。もっと、カムイの中に留まり、堪能していたい。そう思って、彼は腰に感じる快感に耐えた。
しかしそれも、限界がやってくる。カムイがきゅうきゅうと中を締めつけてきて、絶頂が近いことを知ったリョウマは、そろそろかと思って、腰を突き上げながら、身体を少しかがめた。すると、それにより、リョウマが動くたびに彼女の蕾が押しつぶされて、カムイは悲鳴に近いような喘ぎ声を上げる。
「いやぁっ、ア、アァァ…!!だめ、リョウマさんっっ…そこ、当たってて……アァ…!!」
「……っく……!」
何度も蕾を擦られ、快感を極めたカムイは、びくびくと腰を震わせながら、何度目かわからない絶頂に達した。しかし、その収縮にリョウマは耐えると、カムイの呼吸が落ち着く前に、その熱を引き抜き、さらに奥へと進ませて行く。
呼吸も整わないうちに、すぐさま弱いところを突き上げられて、カムイは切なく鳴いた。
「だめえっ、そ、そんなにしたら…も、イっちゃう、ぁっ、アァ…!」
「何度も……っ……登りつめさせてやるっ……はっ……カムイ……もう、限界だ……」
「ああぁ……!奥まで、いっぱい……」
彼の剛直がカムイを穿ち、その激しさを増して行く。脚を抱え込みながら、リョウマはその一番奥で欲を放つと、その体勢のまま、呼吸を整えていた。
カムイの中は絶頂による痙攣で、まだ少しリョウマのそれをやんわりと刺激をしている。これまで、カムイを抱くのを我慢したことが何度もあったからだろうか、リョウマのそれは、やっとつながりあえたことに興奮して、なかなか熱が引かなかった。
それどころか、今だに硬さを失うことのないそれは、柔い内部の刺激に、少しずつ元気を取り戻していく。
「……カムイ、悪い……我慢が出来そうにない…」
「あっ……!」
一度それを引き抜いて、カムイの身体を引き寄せようとすると、ちらりと見たカムイのそこから、リョウマの吐き出した白いものが、とろりと流れ落ちてきた。美しく、清廉な妻が、男の欲望に乱されているーー……。
そう思っただけで、リョウマはどうしようもなく欲を高めてしまい、カムイを離してはやれなさそうだ。
憂うべきは、明日、カムイを抱きすぎたことにより、彼女が起きられないことだろうか。
リョウマは愛おしげにカムイの額に口付けると、彼女もまた、リョウマに抱き付いて甘えてきた。
それにリョウマは瞳を細め、カムイと唇を触れ合わせる。
そして、夜が更けていく。次第に二つの影は一つに伸びて、闇の中に消えていった。
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