深い闇の底で

 深い闇が押し寄せる時刻であった。
 その闇の中で、カムイはマークスによりベッドに押し倒されていた。
 近くで見る彼の深い色をした瞳は、どこか色を孕んだような気すらした。

「マークス…兄さん…」

 吐息交じりに名を呼べば、彼女を押し倒していたマークスは、ふっと口元を綻ばせ、瞳を細める。

「困った女だ……このような時まで兄と呼ぶとは」
「だ、だって…いつも兄さんって呼んでたから、慣れなくて……」

 眉根を下げていう彼女は、とても恥ずかしがっているようで、頬は赤くなっている。
 そのような反応に気をよくしてしまうマークスは、無骨な指先をカムイの頬に滑らせると、意味ありげに微笑んだ。

「慣れぬ…か。それも致し方ないな…これまでずっと義兄として過ごしてきたものだからな…」
「……は、はい…」
「…だが、そうやって恥ずかしがるおまえも愛おしい…」

 恥ずかしがるカムイの首筋に顔を埋めて、マークスはそこに唇を押し当てると、肌が粟立つような感覚に、カムイは思わず唇を噛み締める。彼の唇が、カムイの首筋から顎、口元まで滑っていくと、その感覚に耐えきれなかったのか、彼女の口から小さな声が漏れる。

「……ふっ…」

 こうして、マークスがベッドの上でカムイを求めてくるようになってから、少しのときが経った。
 触れられることは少し慣れたような気がしていたが、それでもやはりまだ照れが勝ってしまうようで、ふたたび唇を噛み締めて、顔を赤くさせている。
 唇が上がるにつれて、カムイは落ち着かなくなってしまい、つま先に力を込めて、その言いようのない感触に耐える。
 いつまでもそうやって恥じらっていたからだろうか、マークスは彼女の喉元にちゅっと吸い付くと、そのまま喉に軽く歯を突き当てる。

「…んっ…」
「そんなに恥ずかしがってばかりで…その姿も愛らしいものだが、さすがに慣れてもらいたいところだな」
「で、でもっ……」
「落ち着いて、息を吐いてみろ…」
「…は、はい……」

 マークスに言われたとおりに、カムイは息を深く吐き出すと、ゆっくりと彼女は息を吸い込み始める。
 肺を満たすその空気にほっと心を落ち着かせると、カムイはマークスに甘えるように抱き付いた。
 その甘える様子に、マークスは嬉しそうな顔をすると、彼女の耳元を甘く噛む。

「……っ…」

 耳元に感じるマークスの歯の感触と、唇のあたたかさに小さく息を吐き出すと、悶えてしまって、彼女はもぞもぞとベッドの上で身を捩じらせる。

 しかし、いつまでもこのように恥じらっていては、進められるものも進められないものである。

 マークスは意を決してカムイの襟元をくつろがせると、少しずつ衣服を剥いでいく。
 一枚ずつ服が脱がされていくその光景に、カムイはあわあわと顔を赤くさせる。

「…マ、マークス兄さん……」
「ん、どうした…脱がさなければ先には進めぬだろう……」
「で、でも…」
「それとも、このままするか…? 別に、それでも構わぬぞ」
「…っあ…」

 素肌をかすめるマークスの手のひらに、カムイは思わず瞳を閉じる。中途半端に脱がされてしまうカムイは、身動きが取れなくなってしまい、マークスに捕らわれてしまう。
 そうやって、カムイは顔を赤くさせたままマークスを見上げると、わずかな涙で濡れた緋色の瞳で彼をすがる。

 そうして、傍にあるマークスの唇を手のひらで抑えると、その様子にマークスは瞳を丸くさせる。

「……おまえは、焦らし上手だな…そうやって私を焦らして、虜にさせている……」
「え、えっ…!」

 月明かりに照らされたマークスの瞳は、紫色に光を放つ。その瞳に魅入られたカムイは、唇をつぐみ、降りてくるマークスの手のひらを受けている。

 まだ、夜は深まるばかりだ。深い闇に包まれながら、カムイはマークスの手のひらを受け入れ始める――…

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